終日滞在できる最後の日となり、
やり残し、悔いがないよう、
花巻でしたいと思っていたことは
すべてやり尽くしたいと思いました。
ひとつは「風の又三郎」のモデルになった場所
― 特に分教場のモデルを実際に見ること、
(様々な説がありますが、花巻市大迫町はそのうちのひとつ
といわれていることを駅の観光案内所で教えていただきました。
また、宮沢賢治記念館で催されていた企画展
「早池峰山と賢治 いにしえの残丘幻想」の資料の中にあった
「早池峰の山々と賢治作品」は大変参考になりました。)
もうひとつは、
もう一度行ってみたいと思いながら
このたびまだ行けていなかった
詩碑のある場所(羅須地人協会跡)と
イギリス海岸(賢治さんが教え子を連れてよく行った
北上川畔の凝灰質泥岩が時に川面に露出する場所)、
そして1日目に行ったものの、是非もう一度行きたいと思った「林風舎」です。
花巻駅からバスで50分ほどの大迫(おおはさま)町は、
帰りの最終バスが13:50なので、
花巻駅発9:24のバスには乗っていきたいと思いました。
そのため8:00に文化タクシーさんに来てもらい、
詩碑とイギリス海岸を回りました。
詩碑は、宮沢賢治さんが理想の社会実現のために始めた
農民のコミュニティー「羅須地人協会」の拠点となった
宮沢家の別宅跡地に建てられています。
郊外の林の中にある不思議な空間で、
1991年に初めて訪れたとき、
この場でインスピレーションを得、
いくつもの作品が生まれました。
「羅須地人協会跡にて」1994
「風とゆききし雲からエネルギーをとれ」1997
この地に立つポールに書かれていたこの言葉
(宮沢賢治著「農民芸術概論綱要」の中の言葉)
に触発されて出てきたイメージをもとに描いた絵です。
1991年 現在
今では風雨にさらされてその文字もほとんど消えてしまっており、
19年という年月を感じました。
タクシーの運転手さん(文化タクシーのFさん、お世話になりました。)が
「まだ時間に余裕がありますよ」と言ってくださったので、
「下の畑」(宮沢賢治自耕の地)まで行くことにしました。
そしてそこが北上川のほとりであることに改めて気付きました。
何の変わったところもないところかもしれませんが、
私にとってはなつかしい感じがする、
不思議に落ち着く場所でした。
「イギリス海岸」はそこから5㎞くらい北にあります。
私は川面に露出する泥岩層を見たことがありませんが、
ここも花巻に来るたび訪れたくなる場所です。
今回は対岸の風景にも惹かれ、
是非またスケッチに行ってみたいと思いました。
花巻駅前バス乗り場の様子です。
絵にも描いてみたくなる、
なんだかなつかしい情景です。
こんななつかしさを感じられるのも
花巻の魅力のひとつです。
花巻駅9:24発、
10:09に大迫バスターミナルに着きました。
宮沢賢治さんはたびたび早池峰山に登り、
そこで多くの詩や童話が生まれていますが、
大迫町は登山の拠点となったところで、
賢治さんとは深い縁のあるところです。
大迫町
まず 「早池峰と賢治」の展示館(旧稗貫郡役所を復元した建物) を訪ねました。
旧稗貫郡役所は、童話「猫の事務所」のモデルになった建物ともいわれているそうです。
内部もなつかしい雰囲気・・・
1階展示室には猫の事務所のキャラクターが・・・
2階には昔なつかしい教室が再現されていました。
(他、賢治さんが定宿にしていた旅館の一室の復元展示もありました。)
展示を見させていただいた後、
1階町民室で観光案内もしておられる職員のTさんに
「風の又三郎」に出てくる学校のモデルになったともいわれる
火ノ又、沢崎分教場跡に行ってみたいのですが、
このあたりにタクシーはあるのでしょうか、と伺うと、
「よかったら私の車で行きましょう。」との信じられないようなお言葉!
恐縮しつつもご案内をお願いすることにしました。
車で少し走ると、そこはいかにも「風の又三郎」の舞台でした。
晴れ間も見えて、山、川、草木が輝き、歓迎してくれているよう・・・
車の中からも夢中で写真を撮りながら進みます。
そして到着した火ノ又分教場跡。
Tさんはその上手、田んぼの中に湧く泉に案内してくれました。
「風の又三郎」の冒頭に出てくる、
運動場の隅にある「ごぼごぼつめたい水を噴く岩穴」
のモデルではないかということです。
分教場跡の前には、お話のとおり美しい谷川が流れていました。
これまで想像するだけだった「風の又三郎」の舞台のイメージが
とても具体的になってきました。
モリブデン鉱採掘坑跡がある「猫山」への登り口付近
確かこれが「猫山」だったと思うのですが・・・
Tさんは本当にご親切にいろいろお教えくださったのですが、
メモを取らず写真ばかり撮っていたので
はっきり覚えていないこともあります。
(間違っていたら申し訳ありません。)
「風の又三郎」のお話にも出てくるたばこ畑
沢崎分教場跡。
ここが「小さな学校」のモデルだという説もあるそうです。
このほかたくさん写真を撮りました。
これらをもとにそのうちあのお話の世界を絵にしてみたいと思っています。
Tさんは全くの無償で、2時間近くもていねいにご案内くださいました。
このように花巻ではたくさんの方々に本当に親切にしていただきました。
皆様本当にありがとうございました。
大迫バスターミナルも
なんだか子どもの頃にタイムスリップしたようなところでした。
13:50発
花巻駅前14:40着。
ここでおみやげを買おうと林風舎に行きましたが、
残念ながら定休日でした。
(15:00)
そこで花巻駅前「なはんプラザ」の
銀河鉄道の夜をモチーフにした時計のからくりが動くのを見てから、
急きょタクシーでイーハトーブ館へ行き、
おみやげや資料を買いました。
16:00、
朝もお世話になった
文化タクシーFさんに来ていただき、
朝行ってみたいと思ったイギリス海岸の対岸に
連れて行ってもらいました。
そこはやっぱり!
とても絵を描きたくなる場所でした。
Fさんにしばらく待ってもらい、
短時間で3枚スケッチをしました。
(下はその後加筆したスケッチ。現在制作中。)
その後旅館に帰る途中、
Fさんのご案内で、
理髪店を営みながら絵を描いておられる
滝田恒男さん宅を訪ねました。
理髪店の2階が私設美術館になっており、
宮沢賢治さんゆかりの風景や
賢治さんの生き様を表す心象画が所狭しと並べられていました。
タッチに勢いある、空気感にあふれた風景画、
自由にのびのびと描かれた心象画でした。
「絵が下手だろうが、上手だろうが関係ない、
賢治が感じた空気にふれながら絵を描き、
賢治と時間を共有する、至福の時なのです」
とは滝田さんの言葉ですが、
自らの故郷でその原風景を、描くことを通じて大切にしていく
その生き様にはとても共感し、また学ぶべきものがありました。
この日はもう一度大堰川プロムナードや市街地を歩き、
名残を惜しみました。
下は花巻駅近く(大通り2丁目あたり)の風景
1991年 現在
上の写真の道を入っていったところに古い映画館がありました・・・
1992年 現在
ゴーシュが勤める活動写真館のようだと思ったものですが、
今はもうなくなっていました。
1991年
これも花巻駅近くの風景ですが、
この趣ある建物もなくなっていました。
けれども、まだまだ私にとって魅力のある風景はたくさんみつかりました。
(次回に続く)
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